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大阪地方裁判所 昭和59年(行ウ)51号 判決

原告 株式会社すし半仲店

被告 大阪府北河内府税事務所長

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告

被告が昭和五八年二月一日付けで原告経営の民芸すし半守口店の昭和五五年四月分から昭和五七年三月分までの各月の料理飲食等消費税についてした更正処分及び過少申告加算金決定処分のうち課税標準額が別表1の原告主張額欄記載の金額を超える部分を取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決

2  被告

主文と同旨の判決

二  原告の請求原因

1  原告は大阪府下で飲食店「民芸すし半守口店」(以下「本件店舗」という。)他数店舗(係争各月当時は合計八店舗)を経営し、料理飲食等消費税(以下「料飲税」という。)の特別徴収義務者に指定されている者であるが、本件店舗の昭和五五年四月分から昭和五七年三月分までの各月の料飲税について別表1の申告額欄記載のとおり納入申告したところ、被告は昭和五八年二月一日付けでこれにつき別表1の更正額欄記載のとおり更正する旨の処分(以下「本件処分」という。)及び別表1の過少申告加算金欄記載の金額の過少申告加算金決定処分(以下「本件決定」という。)をなし、同日原告に通知した。そこで原告は昭和五八年三月三〇日大阪府知事に対し審査請求をしたが、同知事は昭和五九年三月一五日付け裁決でこれを棄却し、右裁決書騰本は同月一六日原告に送達された。

2  しかしながら、本件店舗における係争月分の料飲税の課税標準額及び税額は別表1の原告主張額欄記載のとおりであるから、本件処分中右金額を超える部分は原告の課税標準額を過大に認定したもので違法であり、従つて本件決定中これに対応する部分も違法である。

よつて原告は被告に対し、本件処分及び本件決定中右違法部分の取消を求める。

三  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1の事実は認め、同2の事実は否認する。

2  被告は原告経営店舗中六店舗につき料飲税犯則嫌疑事件として、昭和五七年三月二六日原告の事務所等において強制調査を行い、各店舗の売上伝票、事務所報告書、総勘定元帳等の資料を差押えた。

しかし、被告が入手した本件店舗に関する売上伝票は掛売上分については係争各月を通じた全期間のものであつたが、現金売上分については昭和五六年一〇月から昭和五七年三月までの期間のうちの一部だけであり、しかも双方共に飲食人数が記載されていないものが含まれていたので、被告は次のとおり一部推計を併用して係争各月分の課税対象売上額(課税標準額)を把握した。

3  本件店舗の係争各月分の課税標準額の算出過程は以下のとおりである。

(一)  本件店舗は、一階が桟敷、カウンター席に、二階が座敷席になつており、座敷席での飲食については飲食代売上額の一五パーセントが席料(サービス料)として徴収されている。

(二)  現金売上分のうち席料徴収箇所については、次の方法で各月ごとの売上額、免税売上額、立替額を算出して課税対象売上額を求めた。なお、現金売上分のうち席料を徴収しない箇所については、入手しえた期間の売上伝票からは飲食人数が把握できず、当該売上の免税売上額、ひいては各月の免税売上額の算出が不可能であるため、各月の課税対象売上額を計上しなかつた。

(1) 売上伝票に基づき毎日作成され本店に提出された事務所報告書(ただし昭和五五年四、五月分については管理会計票)には、現金売上額は総額でしか記載されていないが、現金売上にかかる席料額が記載されていたので、その各月ごとの合計額を〇・一五で除した額に各月の席料額を加算して各月の売上額を算出した。その金額は別表2の〈2〉欄記載のとおりである。ただし、昭和五六年一〇月分から昭和五七年三月分までについては、入手しえた売上伝票のうち飲食人数が記載されているもの(合計八〇〇枚、以下「基礎伝票」という。)の売上額の実額を同欄上段に記載し、前記算出額から右実額を差引いた金額を下段に記載している。

(2) 料飲税は一人一回の料金が一定金額(係争各月当時は二〇〇〇円)以下の飲食には課されないので、次のとおり各月の免税売上額を算出した。

基礎伝票中、売上額から後記立替金を控除した額を飲食人数で除した額が二〇〇〇円以下となる伝票一〇七枚が免税売上分とみられ、当該伝票の売上額から立替金を控除した額の合計額七一万四二四〇円を基礎伝票記載の売上額の合計額一四七四万六〇一〇円で除して免税比率を求めると〇・〇四九(小数第四位切上げ)となるので、前項で求めた各月の売上額に右比率を乗じて免税売上額を算出した。その金額は別表2の〈3〉記載のとおりである。ただし、昭和五六年一〇月分から昭和五七年三月分までについては、同欄上段の額は右一〇七枚の伝票の免税売上額の実額であり、下段の額は〈2〉欄下段の売上額から右により算出したものである。

(3) 売上額に含まれている土産代金、折箱の代金、カラオケ代金等の立替金は課税対象とならないので、次のとおり各月の立替金を算出した。

基礎伝票から抽出した立替金合計額五万七二六〇円を基礎伝票記載売上額の合計額一四七四万六〇一〇円で除して立替比率を求めると〇・〇〇四(小数第四位切上げ)となるので、(1)で求めた各月の売上額に右比率を乗じて立替金額を算出した。その金額は別表2の〈4〉欄記載のとおりである。ただし、昭和五六年一〇月分から昭和五七年三月分までについては、同欄上段の額は基礎伝票から抽出した実額であり、下段の額は〈2〉欄下段の売上額から右により算出した額である。

(4) 各月ごとに(1)の売上額から(2)の免税売上額及び(3)の立替金を差引いたものが現金売上分のうち席料徴収箇所に係る各月の課税対象売上額であり、その金額は別表2の〈5〉欄記載のとおりである。

(三)  掛売上分については、係争全期間の売上伝票のうち売上額から立替金を控除した額を飲食人数(飲食人数が記載されていないものは飲食内容から飲食人数を推定した。)で除した額が二〇〇〇円以下となる売上伝票を除外し、残りの売上伝票によつて各月の課税対象売上額の実額を算出したが、その金額は別表2の〈7〉欄記載のとおりである。

(四)  各月ごとに現金売の課税対象売上額と掛売の課税対象売上額を合計したものが本件店舗の各月の課税標準額であり、その金額は別表2の課税標準額欄記載のとおりである。

4  以上のとおり、被告がした課税標準額の認定には違法は存しないから本件処分は適法であり、従つてこれに基づく本件決定も適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張2のうち前段の事実は認める。

2  同3の事実中(一)の事実は認めるが、(二)以下の事実については計算関係は知らず、売上額、課税標準額を争う。

3  被告が現金売上分のうち席料徴収箇所の免税売上額を算出するのに用いた免税比率は、いわゆる冬場における基礎伝票の売上額だけから求めたものであり、これを一般に食欲がすすまず一人一回の飲食量が冬場に比べて少なく、免税売上分の比率が高くなる夏場をも含めた全期間に一律に適用するのは合理性を欠いている。

4  原告が昭和五六年一〇月分から昭和五七年三月分までの本件店舗の売上伝票に基づいて右期間の売上額及び課税対象売上額をそれぞれ算出し、後者の前者に対する比率を求めたところ〇・三一三であつた。そこで、事務所報告書に基づき集計した係争各月の売上飲食代金及び席料の合計額に右比率を乗じて各月の課税対象売上額を算出すると、別表1の原告主張額欄のうち課税標準額欄記載のとおりとなる。

五  証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  料飲税は、料理店、貸席、カフエー、バー、飲食店、喫茶店、旅館その他これらに類する場所における遊興、飲食及び宿泊並びにこれらの場所における休憩その他これに類する利用行為に対し、料金を課税標準として、その行為地所在の都道府県において、その行為者に課せられるものであり(地方税法一一三条一項)、右場所の経営者その他徴収の便宜を有する者で都道府県条例で指定された者が特別徴収義務者とされているが(同法一一八条一項)、飲食店等における一人一回の料金が免税点(本件係争期間については二〇〇〇円)以下である飲食等に対しては課税されず(同法一一四条の四第一項)、また土産代金、折箱代金、カラオケ代金等経営者が立替えた金額に対しても課税できないので、課税対象売上額を認定するに際しては右課税対象外の金額を算入することのないよう配慮する必要がある。

三  そこで被告の主張につき検討するに、被告主張2の事実中前段の事実は当事者間に争いがなく、証人高橋新一の証言によれば同項後段の事実が認められる(なお、弁論の全趣旨によれば、原告は係争各月分の課税標準額である課税対象売上額を一部推計を併用して算出することの必要性を明らかに争わないものと認められる。)。

更に、被告主張3の(一)の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二号証の一ないし一一、第三号証、第五号証の一ないし一七、第六号証の一ないし一六、第七、八号証、証人高橋新一の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告が係争各月分の課税標準額を算出した過程は被告主張3の(二)ないし(四)の事実のとおりであることが認められる。

なお、乙第七号証には掛売上分の売上伝票のうち飲食人数の記載がない課税伝票が一八枚ある旨記載されているところ、実際にはそのうち三枚に飲食人数が記載されていることが乙第五号証の二、七、一〇によつて明らかであるが、右はいずれも課税対象に相当する伝票であることが右乙号各証によつて明らかであるから、右事情は前記認定を左右するものではない。

付言するに、被告は課税標準額把握の原資料である帳票類の量が膨大であるところから立証活動の重点を推計方法の合理性に置いた結果、本件においては課税標準額算出のための基礎数値が記載されている帳票類はその一部が例示的に書証として提出されているに過ぎないが、証人高橋新一の証言によれば、右帳票類は被告において写を作成した後全部原告に返却していることが認められる(従つて、原告においてこれを点検し、必要に応じて反証として提出することは容易である。)のみならず、前出乙号各証、証人高橋新一の証言及び弁論の全趣旨によつても、被告の職員が時間と労力をかけ帳票類を検討して作成した集計表(乙第三、第八号証)等に基づき別表2記載の数値が算出されたことが十分窺えるから、被告の立証が不十分とは言い難い。

四  ところで、被告による本件店舗の課税標準額把握には一部推計の手法が採られているのでその合理性につき判断するに、まず現金売上分のうち席料徴収箇所について、事務所報告書又は管理会計票記載の席料額から逆算して各月の売上額を求めたことは、右席料額が売上伝票に基づき日々記載されていた以上作為が介入する余地はなく、毎日の現金売上分席料額の合計額が正確に記載されていたものと思料されるから、その推計方法は合理的というべく、また免税売上額算出に用いた免税比率及び立替金算出に用いた立替比率は、いずれも係争全期間の一部のものであるにせよ、合計八〇〇枚に及ぶ基礎伝票に基づき求められたものであつて、その枚数に照らしても係争全期間の免税売上額及び立替金を推計するに十分なものであり、かつ被告の恣意が介入する余地のないものであるから、右各比率による推計も合理的というべきである。次に掛売上分に関し飲食人数の記載のない売上伝票については飲食内容から飲食人数を推定したことも、前出乙第三号証、第五号証の一、三ないし六、八、九、一一ないし一三、証人高橋新一の証言によれば、被告においてこれに該当する一五枚の伝票に記載されている品名を遂一検討し、付出しや鍋物等の数から飲食人数を推定したことが窺われるので、合理的な方法というべきである。

原告は、右推計方法中、現金売上分のうち席料徴収箇所の免税売上額算出に用いた免税比率について、冬場の資料から求めた右比率を夏場を含む全期間に一律に適用することは推計の合理性を欠く旨主張するが、成立に争いのない乙第八、九号証、証人高橋新一の証言に弁論の全趣旨を総合すると、飲食人数が記載された掛売上分の売上伝票に基づき算出された夏場(昭和五五年七、八月七五人、昭和五六年七、八月一四二人)と冬場(昭和五五年一二月、昭和五六年一月一四四人、昭和五六年一二月、昭和五七年一月一二六人)それぞれの一人当り消費単価を比べても両者に顕著な差異は存しないことが認められ、この点は現金売上分についても同様であると推認されるから、原告の右主張は失当である。

更に原告は、独自の推計方法によれば売上額に対する課税対象売上額の割合が〇・三一三であり、課税標準額は別表1の原告主張額欄のうち課税標準額欄記載のとおりである旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

以上のとおり、被告の推計方法は課税対象売上額の認定に際し課税対象外の金額を算入することのないよう十分配慮されているのみならず、現金売上分のうち席料を徴収しない箇所のごとき課税対象売上額の把握が困難なものを当初から課税対象から排除する等して控え目に推計がなされており、合理的なものというべきである。

そうすると、右のような推計を併用してなされた本件処分は適法であり、これに基づく本件決定もまた適法というべきである。

五  以上によれば、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木敏行 古賀寛 松田亨)

別表1、2〈省略〉

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